020.02.10 向田さんのこと 田辺聖子 週刊文春
遭難の１０日前、8月12日は徳島の阿波踊りであったばかり、小股の切れ上がった女ぷりの良さ。じつにすっきりと垢抜けていた。
直接にあったのは3-4回それも最近、ここ３，４か月で初めて会ったときは美しい人という印象、座談もうまく、まさに才女であった。
才女というには40才以上、４０才以上で美人は希である。
銀座のバーで偶然会って、1時間ほど会話、直木賞を受賞の「かわうそ」の話になり田辺があれは私にそっくりと言うと
向田が真面目な顔になり、「いやあれは私です」と二人で言い合いになった。
向田；あたしは長いものが苦手、短いものしか書けない。
向田さんは細部に異常な関心を持ち、人の虚をつく才能あり。
ユーモアも明晰で乾いたもの。
向田さんの小説やエッセイは人生の深淵さをかまみさせる恐ろしさも皮肉もあった。
向田さんのテレビは都会的洒脱さにあふれていたが、小説にある恐ろしさや毒は巧妙に隠されていた。
向田さんは男性を描くのがうまかった。ことに中年・初老の男性を描かせると溌剌としていた。
亡きご父君への敬慕が向田さんの男性観に暖かさと弾力を与えたようだ。