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2020.02.03　おの字　向田邦子　夜中の薔薇

親の無い人が羨ましい
故郷のない人が妬ましい

活字の世界に仲間入りしてまだ日がたたない。
つくづく物が書きにくい。
「酒を飲むと」書けない。
「尻をまくる」書きづらい。

母はまだ健在。ある日、娘が本名で酒とか尻と書きだしたらどんな心もちか。
また親戚が東京にたくさん住んでいる。
きよわく「お酒」とか「お尻」とおを付け加える。
そうすると文章が甘口になる。
賞なんぞいただいたので尻をまくって「お」をとってしまおう。
そうするなんとなく居心地が悪い。
取ったり付けたりでただでさえ小汚い原稿がますます汚くなる。

これは男のかたにはわからない、いや男にはわからない苦労であろう、
いまだに「お酒」と酒、「お尻」と「尻」の間を行き来している。