2020.01.29 時計なんか怖くない 向田邦子 PHP1978年12月
20代には何故1日は２４時間しかないのかと悩んだ。
1日の終わりには、「また1日を無駄にしてしまった」と悔悟の念を持った。
毎日、なにかに追われていた。
時間の使い方のうまい人を知っている。細かく時間を分けて全てにすぐれ才色兼備の人であった。
例えば、もめ事をおこしている夫婦には、この人はすぐに
「別れるべきよ、別れて新しい人生を踏み出しなさい」と断言する。
理屈はそうだが、人間などそう簡単に割り切れるものではない。
彼女は私の書いたものにも、「はっきりしない」と文句を言う。
時は一秒一秒、すぎていくが、1年で見ると大木流れ。３−５年を無駄に過ごしても、６０年７０年の一生ではひっかき傷にもならない。
人間は時計を発明したときから能率的になったが、同時に時計の奴隷になった。
もっと大きな人生、一生という目に見えない大時計で自分だけの時を計ってもいいのではないか。
私はどちらかと言えば負け犬が好きです。
焦り、後悔も人間の貴重な栄養です、いつの日かそれが「無駄」にならずに「こやし」になる日が必ずあると思います。
真剣に暮らしてさえいれば、です。