20209.01．04 傷だらけの茄子 向田邦子 霊長類ヒト科動物図鑑 週刊文春1980.5.29〜1981年5.28
台風接近のニュースを聞くと40年前のあの日を思い出す。
子供の頃すぐ裏に内科の医院があり、小さな猿が飼われていた。
大変に利口な猿だった。
台風のさなか、嵐の音で野生に戻ったのか、鎖を切って逃げ出し、屋根の上で叫び声を出していた。
台風が去った後に屋根から足を滑らして落ちたのかなきがらが転がっていた。
台風がくるというと、昔はどうしてあんなに張り切ってのか。
＜以下、向田家の台風に備えてのてんやわんやが書かれる＞
父が帰るとみんな揃ってお帰りなさいと玄関に一列に並んで合唱する習わし、
台風がくるというのに、なんでのんびりならんでない怒鳴られる、
出迎えがなければ、ないと小言を言われる。
晩飯は火を使わずに缶詰となると、子供たちは歓声。
次の日には八百屋の店先に傷んだ茄子が安売り。