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2019.12,08 本が好き、悪口言うのはもっと好き (文春文庫) (日本語) 文庫 高島俊男 1998/3/101995年 大和書房 1937年生まれ

第11回(1995年) 講談社エッセイ賞受賞
支那という国名表記にメスを入れ、返す刀で李白と杜甫、狩野亨吉や江馬修を論じ、湖辺の侘び住いから鋭い書評を放つ。第11回講談社エッセイ賞を受賞した傑作痛快評論集。(坂梨隆三)

目次
1 うまいものあり、重箱のスミ
  Freeze: 1992年に米国ルイジアナ州のハローウィンの夜、16才ぼ服部君が間違った家の主人にフリーズと言われて立ち止まらず射殺された事件、
米国の文化をしらないのが原因。米国では身の安全は自分で守るものであり、しばしば攻勢は最大の武器と見做される。
中国の文化大革命の時代,、下放された漢人の女性がモンゴル人に招かれて、家を訪問してその家の家族が見守るなかで強姦される事件があった。
モンゴルでは性行為は家畜の生態でよく見かけるオープンな行為、一方、漢人社会では性行為は秘儀。漢人女性がモンゴルの文化を知らんなった悲劇。
外国を旅行してきて「人の誠意はどこでも通る」という人がいる。大部分はそうであろう。しかし、通らない場合もある。それが服部君事件の教訓である。

2 新聞醜悪録
  新聞を見ていていつもはらがたつ。特にスポーツ欄である。スポーツ記者は運動ばかりして文章を書いたこともないので間違いだらけ。「激を飛ばす」を
激励の意味で使っているが間違い。激は遠方の見方に立ち上がれと呼応を呼びかける言葉。正しくは「活を入る」である。
日本語の言葉のオンを漢字で表すのが和語である。ところが、日本の字音語は意味とは無関係。何故なら、漢字は中国から輸入したからである。
現在、字音語は日本語語彙総数の半分を占める。これが日本語の宿命的な欠陥である。原因は、漢字が余りにも早く日本に入ってきたから。
  「母なる語の子守歌」
大新聞で母国語という言葉がしばしば使われるがナンセンスである。世界に170カ国以上、現在、世界に3000以上の言語が使われている。
日本のように一国で日本語一つは希。多くの国では多言語である。中国では93パーセントの人が漢語を喋るが、それ以外の言葉を喋る人も多い。
中国の母国語を中国語というわけではない。西洋の人がチャイニーズと呼ぶのは漢人でウィグル人やモンゴル人ではない。言語と国は別である。

3 書評十番勝負
 「健全とはこういうものである」;養老孟司の「カミとヒトの解剖学」を絶賛。

4 「支那」はわるいことばだろうか
  戦前の日本人は「中国人」を支那人と呼んだ。他に「中国」を表す言葉がないので支那と呼んだ。
支那という言葉は、1500年前、インドで現在の中国あたりを、シナスタイン、シナと呼んだのが起源である。
そのシナは中国の最初の統一帝国,秦からきたものであろう。もともと中国には、自らの民族、土地、国を表す言葉がない。その必要がなかったから。
一般人は江戸時代には「から」「もろこし」と呼んだ。
中華民国政府は1930年に日本政府に中華民国と国号を称することを求め、支那の文字を使用した公式文書を拒絶すると通告。
新劇、「女の一生」で杉村春子が明治大正の古めかしい装置のなかで中国、中国と叫ぶのを聞いて、ジョージ・オーウェル的世界、過去改変の
走りと感じた。
支那という言葉は日本語の語彙からほとんど抹殺された。中国ということばは古い言葉である。
もともとは、おれたちの居る所の意味。

5 ネアカ李白とネクラ杜甫
  李白と杜甫は同時代の人。李白が11才年上。唐の時代744年に両人は出会う。意気投合したが性格は正反対。
当時の就職のルートは試験かコネ。宴会に出て詞を書き有力者に認めてもらう。
李白が呑み助で杜甫は食いしん坊。杜甫は名門の出。李白は素性が知れぬ。
中国の皇室にはみんな姓がある。日本の皇室には姓がない。万世一系だから。
杜甫は儒教、李白は道教。
中国人は世代を重要視。老人をたっとぶ。
李白は一人旅、杜甫は一族郎党をつれた多人数の旅。杜甫の妻は一人。当時の士大夫には妻が複数いるのが普通。
李白はあちこちに妻がいて子供をつくり、そのまま放浪、無責任であった。
中国には二種類の人間しか存在しない。頭を使う人間で、文字を解し学問をし詞をつくり役人になり、政治を指導する。もう一種類は体を
使い文字を解しない、大部分は農民。あとは職人、運輸人夫、商人である。人口比は前者が2ないし3パーセント程度。
役人は全土に配布されて、李白、杜甫らはそこを頼って旅をする。
統治者と被統治者である。本を読むか読まないかの差。前者を君子、士大夫、読書人、紳士などと呼び、後者は民、庶、けん首、などと呼ぶ。
役人は原則としてみな、詩人である。詞を作れないと役人の試験に通れない、役人仲間の付き合いが出来ない。
杜甫は工部員外郎という役所で旅、いまの建設相の課長補佐クラス。役人のファミリーがありそこで世話。
中国の学問とは、古典を丸暗記すること。その図書館を頭に持っていて詞をつくるときにしこから引き出す。
中国の詞は音楽だ。中国の音節は日本語に比較して複雑で数が多い。
李白や杜甫の時代には詞は二種類に分けられる、近体誌と古誌。

6 なごやかなる修羅場;石川淳、丸谷才一、大岡信、安堂次男の歌仙1981年、は面白かった。

7 湖辺漫筆
  知らず何れの処かこれ他郷;筆者は広島県の北部に住む
  良い子はあいさつ忘れない;無職・無収入の身
  巨人の星を倒すまで;「ジャイアンツの次期監督に長嶋茂雄氏」のニュースでやったと小躍り
               1.長島がテレビ解説に出てこなくなる→いう言葉やたら大げさで空虚
               2・ジャイアンツが最下位になる可能性
  税務署はよいとこ一度はおいで;若いころは、経理・税務のプロであった。国税庁にいき事務員を手なづけて係官の住所をお歳暮のために聞き出す。
               1991年分の所得税申告書を大津税務署に提出。総収入195万円、経費276万円。2冊の本の印税収入、納税ゼロ。
  かすみのころもすそはねれけり;
  つかまったのが何よりの証拠;一度だけ逮捕されたことある。20年前、相手は鉄道公安官。渋谷駅で切符売り場の窓を叩いたら割れて鉄動公安官に逮捕され
                     その取り調べ、その体験談。否応なしに自白に追い込まれるまで。
  おれはひとりの修羅なのだ;中国で最も知られた日本人、江馬修の話。地獄模様の生活の場面

8 回や其の楽を改めず;狩野幸吉の話。奇人、京大初代文学部長、浮世絵わ印の収集家、生涯独身、漱石との交流

駄文縁起、ぜったい長すぎるあとがき;年間納税額が6000万円以上、日本に5万人くらいいる。
                       この本が丁度10冊目
                       1994年12月