2001-12-05 デービッド・グリーングラス
有名な原子力スパイ事件、ローゼンバーグ事件に関して、NYT記者Sam
Robertsが生きている弟（夫人の実弟）のローゼンバーグを見つけだし、14年間にわたり説得して本人から聞き取り書いた本「The
Brother」副題: The Untold Story of Atomic
Spy David Greenglass and How He Sent His
Sister, Ethel Rosenberg, to the Electric
Chair、Sam Roberts (著)を出版し、またこの水曜日のCBSの60分で弟がインタビューに応じたとの驚愕のニュースです。
ローゼンバーグ夫妻を含めて、間違いなくソ連のスパイではあったが、自分の罪を軽減するために姉に対して嘘の証言をしたとの内容です。AP電（米国）とAFP電（フランス）では、当人の反応のニュアンスが異なっています。米国はえらくドライ、フランスはウェットな反応です。遺児の2人は両親の名誉回復を求めて裁判に訴えたが却下されたというニュースをタイム誌で、数年前にみた記憶がありますが、後味の悪い事件であるのは確かです。
いずれにしても、14年間も取材をするというSam
Roberts氏の執念はすごいものです。
The Brother: Sam Roberts (著)
U.S. 定価： $35.00 円相当額： ￥4,339 価格：
￥3,905 OFF： ￥434 (10%)
ハードカバー - 543 p / 1 Ed 版 (2001/09/18)
2001-12-05 AP電（ＮＹ発）
「ローゼンバーグの弟が偽証を認める」
有罪となったエセル・ローゼンバーグが処刑されてから50年近く過ぎたが、弟が姉に対して偽証したことを認めたが、そのことに問われて、「スパイであったのだから...気にしていない。良く眠れる」と答えた。
1953年6月のローゼンバーグ夫妻はシンシン刑務所で処刑された。ソ連に米国核秘密を漏洩したとのセンセーショナルな裁判から２年後のことであった。
米ソの冷戦時代にスパイ罪で処刑されたのは2人だけであった。彼らの有罪が、マッカーシー上院議員の反共クルセードにはずみをつけた。現在、79歳のグリーングラスはNYTの編集者Sam
Robertsの新刊本"The Brother"とCBSの"60
Minutes II"のインタビューで明らかにした。彼自身もソ連のスパイであったことを認めた。
グリーングラスは起訴されて、自身と妻Ruthが有罪となることを恐れた。後にマッカーシーの助手となった検事補佐のRoy
Cohnが嘘をつくように進めた。
法廷ではグリーングラスが、エセルに対して枢要となる証言を行った。モスクワに送るスパイ報告書をエセルがポタブル・レミントン・タイプライターでタイプしたと証言し、妻のルースも彼の証言をサポートした。
しかし、現在、著者ロバートに述べているように、彼の証言は妻の記憶によるもので、自分のものではない、と述べている。TVインタビューでは、誰がタイプしたか知らない、正直なところ、タイプ作業があったかも覚えていない、全く記憶にない、と述べた。ロバートは著書において「手書きであろうとタイプされていようと、ノートは僅かなことしか書かれておらず、新しいものではなかった」しかし検察側からはレミントンはエセルの手のスモーキング・ガンであった。
TVインタビューで、ローゼンバーグ夫妻がスパイ罪を認めるより死を選んだ理由を問われて「one
word, stupidity」と答え、エセルは自分の死に責任があるのかと尋ねられて「Yeah」と答えた。グリーングラスは、ローゼンバーグ事件に時々、うなされることを認めたが「My
wife says, Look,we're still alive」と付け加えた。
もし、夫妻の２人の息子に出会ったら、「あなたの両親が死んだことを残念(sorry)に思うと述べるが、処刑に関して謝罪(apologise)はしない」と述べた。CBSの番組に「何故彼らを死刑にしたのか私はno
ideaである」と答えた。15年の判決であったが､1960年に釈放され、彼と妻はNY近傍で偽名(assumed
names)のもと生活している。
ローゼンバーグ事件は、反ユダヤ人の動きをともなった有名な政治事件となった。歴史家は、ユリウスに比較してエセルへの証拠は弱かったが夫妻がモスクワへのスパイ活動を認めなかったことが、ソ連との核兵器競争に対する公衆の恐怖を高めた。著者のRobertsはAPに対して「人々は恐怖にかられている時代だった。ロシア人は我々から核兵器の秘密を盗み出すしかなかった」と述べた。「1951年に副司法長官でニクソン政権で国務長官であったWilliam
Rogersは、政府はエセルがユリウスに対して証拠を提出して自らを守ると期待したが、最後には彼女はbluffとして聞き入れなかったと述べた」と語った。
2001-12-06 AFP電（ワシントン発）
「ローゼンバーグ事件；主要な証人が偽証したことを認める」
ローゼンバーグ事件で、夫人を電気椅子に送るのに躊躇していた陪審員に対して、枢要な証言を行った証人が50年後に偽証を明らかにした。
1953年にJulius & Ethel Rosenbergはソ連に核秘密を漏洩したとして、米国内外からの抗議に係らず処刑された。David
Greenglassはエセルの兄弟であったが、水曜日のCBS-TVのインタビューで、KGBに対して原子爆弾の秘密を知らせるメッセージを姉がタイプしていた場にいたかどうかはっきりしなと述べた。彼は裁判において、NYのローゼンバーグ邸で1945年9月に秘密に会い米国の原爆の設計についての情報をエセルがタイプしたと証言した。この証言は1951年のグリーングラス証言はマーカーシズムの重要な共産主義の陰謀の証拠とされた。1950年にFBIに逮捕された時は、ユリウスは米国陸軍の通信部隊(corps
des transmission)の技師で夫人は2人の子供を育てていた。グリーングラスはマンハッタン計画に従事してロスアラモスで若い軍曹として働いていた。
ソ連の情報を漏洩したとされる国務省職員のAlger
Hiss事件と同時に注目を浴びた。共和党上院議員Joseph
McCarthyはこの両事件を共産主義者の浸透と非難した。共産党員であった夫婦は、無罪を主張し続け、処刑まで多くの慈悲の嘆願が送られた。グリーングラスは証言することで、電気椅子を免れた。10年の刑を受け､1960年に釈放されている。
「私は、自分の妻と子供を、姉のために犠牲にすることは出来なかった」
50年後に、姉に対する偽証で悩ませられることがあるのかと尋ねられて次のように答えた。「悩む毎に、私の妻は気にするな、我々は生きているだと述べた,
ma femma ne dit 'regarde, on est encore en
vie」。
2001-12-06 ルモンド紙（パリ発）
「偽証が、エセル・ローゼンバーグを電気椅子に送った」
1953年6月19日にSing Sing刑務所でEthel &
Julius Rosenbergは処刑された。1951年4月9日にソ連に核兵器秘密を渡したことで死刑判決を受けていた。夫妻は無罪を主張していた。50年後の2001年12月5日に、エセルの弟、David
Greenglass､79歳はCBS-TVのDan Ratherの「60分」で偽証であったと述べた。彼はロスアラモスでメカニックの軍人として働いており1950年6月15日にスパイ容疑
で逮捕されていた。同じ共産党員であるエンジニアの義弟のユリウス・ローゼンバーグに教唆されて原爆の秘密を1945年9月に彼に渡して金を貰ったと述べた。
ユリウスは6月16日にFBIにより訊問を受け、7月17日に逮捕された。その間にデービッドは証言を変えて、姉を告発するようになった。妻のRuth
Greenglassは訴追されなかった。朝鮮戦争のさなかで、核戦争の危機がありマッカーシズムのもとNYのFoley
Squareの連邦裁判所で審理が進められ、彼は姉がモスクワに送る文書をタイプでしたと証言し、Ruthもそのように証言した。
彼は、ソ連のスパイであったことを認めているが、タイプの話については妻の記憶によるもので自分は何も知らないと述べた。「夜はよく眠れる、しかしローゼンバーグ事件に悩ませる(hante)が妻は、我々は生きているのだと言う。許し(pardon)は求めない。彼らが死刑になるとは想像できなかった。私は、自分の子供と妻を姉のために犠牲にすることは出来なかった」と述べた。本件に関して「ブラザー」という本を書いた元NYT記者のSam
Robertsはグリーングラスは大物のスパイではなかった。ニューメキシコの砂漠で最初の原爆実験があったときに寝ていたと述べている。
＜百科事典より＞ローゼンバーグ事件 ろーぜんばーぐじけん
ジュリアス・ローゼンバーグ（1918―53）とその妻エセル（1915―53）を、当時のソ連に原爆機密を売った犯人として処刑した事件。英原爆スパイ容疑者クラウス・フックスが逮捕されたのを契機に、同じスパイ・リングの一環として1950年2月グリーングラス夫妻とその義兄ローゼンバーグ夫妻が逮捕された。容疑は、夫妻が戦時中に原爆工場に電気工として勤務したグリーングラスから原爆機密を受け取り、これをソ連に売ったというものであったが、唯一の証拠はグリーングラスの自白だけで、ローゼンバーグ夫妻は最後まで潔白を主張して、自白すれば減刑するとの誘いも断って電気椅子(いす)で処刑された。証拠とされたグリーングラスの自白と彼の描いた図面も、アインシュタイン、ハロルド・ユーリー博士らの最高頭脳がアイゼンハワー大統領あて書簡で述べたように、まったく無意味なものでしかなかった。
事件は、前年1949年にソ連が原爆を保有し、アメリカの原爆独占が破られたことに対する政治反動としてつくられたものとして、アメリカ国内でもヨーロッパでも強い抗議運動がおこり、→□→□大統領への世界著名人の処刑中止の要請も相次いだが、マッカーシズムの吹き荒れる当時のアメリカでは、処刑を中止させることはできなかった。現在では英米でいくつかの周到な調査に基づく研究書も出版されており、ローゼンバーグ夫妻が完全に無実であったことが論証されている。夫妻が獄中から幼い2人の息子たちに送った書簡集（邦訳名『愛は死を越えて』）は有名である。〈陸井三郎〉